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ホームレス転生〜異世界で自由すぎる自給自足生活〜 登場人物 コメント 徳川レモンによるライトノベル作品。 登場人物 テラキオン:田中真一 テブリム:エルナ・フレデリア 技:マジカルシャイン(スタンフラッシュ) コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
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※ 公式からの供給が途絶えた今私たちにできること! それは自給自足! ――――――――――――――――――――――――――― 引越しの前日、私は部室に来ていた。 ティーセットを入れていた棚は取り外され、床だけがその名残で少しへこんでいる。 りっちゃんのドラムセットも、私のキーボードも無い部室はすごく広くなった。 ホワイトボードは真っ白で、なんだか始めて見たもののような気さえする。 そっとテーブルの自分の席に指先で触れてみる。 もっと、懐かしいとか、愛おしいとか、そういう気分になるんだと思っていた。 でも、一人で来る部室はあまりにも綺麗で、私は部室がこういっているように思えた。 『もうお前は桜ヶ丘高校の生徒でもなければ軽音部の部員でもないのだ』 『お前は―――――――異物だ――――――』 (――――――っ) 心が締め付けられる。 みんなと一緒の大学。何も不安なことなんて無い。ここに来るまではそう思えていたのに。 動悸が治まらない。自分で自分に言い聞かせる。 「大丈夫――――――大丈夫だからっ」 それでも自分の体は思い通りにならない。 まるで底なし沼のよう。 もがけばもがくほど深く沈んでいく。 大丈夫と言い聞かせるたびに、自分じゃない自分が耳元でささやく。 『何が大丈夫なのかと』 そして私は想像したくない何かを想像してしまう。 暗くて、怖くて、寂しくて、 私は涙を流してしまいそうになる。 何とか涙をこらえようとする。 もしここで泣いてしまったら、悪い予感があたってしまう そんな気がして、私は泣き喚く胸を強く握り締めた。 「ムギ先輩―――」 自分以外の物音に、心の錘が軽くなるのを感じた。 「梓ちゃん……」 同時に私ははっとする。 まさか、見られてはいないだろうかと別の不安が鎌首をもたげる。 私はそんな不安を取り払うよう、精一杯の笑顔で彼女に振り返った。 「えへ、来ちゃいましたー♪」 梓ちゃんは、いつもどうり振舞ってくれた。 見ていなかったのか、それともあえて触れてこないのか。 どちらにしても、私はほっとしていた。 「明日、引越しなんですよね」 「ええ、そうよ」 「引っ越したら―――――」 梓ちゃんは言葉をとめた。 引っ越してしまえば、簡単には会えなくなる。 言わずとも、伝わってくる。 梓ちゃんは失言だと思ったのか、なんでもないですとうつむいてしまった。 ほかのみんなならどうしただろう。 さみしくなる、いつでも会えると言ってあげられただろう。 りっちゃんなら、明るく冗談を言って梓ちゃんを笑わせてあげられただろう。 澪ちゃんなら、優しく梓ちゃんを励ましてあげられただろう。 唯ちゃんなら、暖かく梓ちゃんを抱きしめてあげられただろう。 でも私には、何も出来なかった。 さっきの不安がまた私を引きずりこんでいく。 梓ちゃんの姿が、私の不安と重なる。 私には、何も出来ない。 何も、ない。 「――――先輩!」 私の冷え切った手に、暖かさが伝わる。 梓ちゃんが、私の手を包んでいた。 「梓ちゃん……」 どうやら、私は沼に溺れていたようだった。 「大丈夫ですか?」 ――――大丈夫 そう言おうとして自分の唇が震えていることに気づく。 喉まで出かかっていた言葉を飲み込んでしまう。 大丈夫だと、何でもないと、言わなければいけないのだけれど、その言葉にはきっと私の不安が乗ってしまう。 結局、私は感情を押しとどめることができなかったのだ。 梓ちゃんもそれを悟ったのだろう。震える私の手を黙って握っていてくれた。 その暖かさで、私はすこし冷静さを取り戻す。 「ありがとう。もう大丈夫だから」 今度は、きっと最初より自然に笑えているはずだった。 でも 「ウソです」 梓ちゃんはきっぱりとそう言った。 ああ、ダメだな私は。 感情を素直に表すには大人になりすぎて、隠し通すには子供すぎる。 どっちつかずだから、上手く出来ない。 梓ちゃんの手が、ただ暖かい。 「ムギ先輩、お願いだから、無理しないでください」 ああ、このまま自分の中の纏まらない感情を吐きだしてしまおうか――― それは、とても甘い囁きで、でもそれはひどく難しいことだった。 だからひねくれものの私は、素直に言うことができなかった。 「ねえ、梓ちゃん」 「はい」 「私ね、すごく幸せだったの。 軽音部に入って、みんなとお茶したり、おしゃべりしたり、演奏したり。 初めてのこともいっぱいあったわ。 友達とお出かけしたこと、曲を作ったこと―――― それに、こんな気持ちも」 梓ちゃんはただ静かに聞いてくれている。 ここで止めておけと、冷静な自分が言っている。 「本当に、幸せで――――」 けれど、私の冷静じゃない部分が言葉を紡がせる。 そして言の葉は、私の冷たい気持ちへと触れる。 「本当に――――魔法のような日々だった」 その先を、口にすることができなかった。 これ以上話してしまえば私は泣いてしまうだろう。 私の声は震えていて、きちんと言葉になっていたのかも怪しかった。 だが、口にしてはっきりと分かってしまった。 私は、魔法が解けてしまうのが怖いのだと。 そして、魔法が解けてしまうと考えていること。 寒い――― 何故だかひどく寒くて、そして何故か狭くて苦しくて、 そして、梓ちゃんにふれている手だけが、妙に脈打っていた。 「12時の鐘が―――――」 シンデレラの話だろうか。 ふと考える。自分はシンデレラなのだろうか。 違和感を感じる。 何故だろう…… 魔法を使いに魔法をかけてもらって、お城のパーティーに参加する。 そこでシンデレラは、王子様とダンスを踊るのだ。 煌びやかで、幸せで、楽しい夢のような時間。 けれど、12時になると魔法が解けてしまい、元の生活に元通り。 このお話には救いがある。 落としたガラスの靴を手がかりに王子様が自分を探し出してくれる。 そして王子様と結婚して幸せになってハッピーエンド。 私は、シンデレラではない。 どちらかというと、王子様のほうだろう。 魔法で化かされて、終わってしまえば残るのは楽しかった記憶だけ。 でも、ひとつだけ違いがある。 王子様は、シンデレラの落としていった靴があった。 私には、何が残っているのだろう。 ふと部室を見回す。 ティーセットも、キーボードも、お気に入りだったカップも、もうない。 私は何を手がかりにすればいいのだろう。 部室は私に、諦めろと囁いているようだった。 「12時の鐘が、怖いんですか?」 少し前まで自分でもそう思っていたくせに、なんだか陳腐な問いに聞こえてしまった。 そうじゃない。 なんだかそんな気がする。 私の雰囲気辛さとってくれたのだろうか、梓ちゃんは否定と受け取ったようだった。 「じゃあ――――――ガラスの靴を、探してるんですか?」 私の心が痛む。 梓ちゃんの優しい言葉が私の脆い心を鷲掴みにする。 それ以上何もいわないでほしかった。 私をせき止めている堰にひびが入る。 ヤメテ たったその一言さえ、私の口は発してくれない。 「ムギ先輩」 やめて、言わないで、お願いだから ――――――こんな私を見ないで――――――― ――――――弱くて、脆い私を―――――――― ――――――触れないで――――――――――― ――――――汚い私の心に―――――――――― お願いだから 見捨てないで―――――― 梓ちゃんは何も言わなかった。 そのかわり、握っていた手を、私の手を梓ちゃんの胸へと導いた。 まるで抱きしめるかのように、私の手を包みこむ。 「私は、暖かいですか?」 私は何も言えずに頷く。 私の体の中で、梓ちゃんが触れている手だけが唯一私のものだった。 「私を、感じられますか?」 私の鼓動が、梓ちゃんの鼓動と重なる。 トクン、トクンと、まるで一つの生き物のように感じる。 「これが、先輩たちが残してくれたものです」 梓ちゃんは優しく微笑んだ。 いつのまにか、私の動機は治まっていた。 「ガラスの靴より確かなものは、ここにありますよ」 「ここにいる私が、います」 「この暖かさも この心も みんな、先輩達がくれたものです」 私は、たぶんこの部室に入ってきて初めて梓ちゃんの顔をちゃんと見た。 天使のようだと、そう思った。 暖かい 私の暗く冷たい心に、暖かな光がさしているのを感じた。 「ムギ先輩の中に、私はいますか?」 何も言えず、私は何度もうなづいた。 気がつけば、あれほど我慢していた涙がこぼれていた。 「なら、大丈夫です。 ムギ先輩がダメになりそうなときは、私が迎えに行きます。 逃げても隠れても、絶対に見つけ出します。 ……だから、お願いです。 一人で悩んで、抱え込むのはやめてください。 ムギ先輩が悲しいと、私も悲しいです」 梓ちゃんの手が、私の頭にふれる。 もう抑えきれなかった。 涙があふれた。 でも、不思議と大丈夫だと、そう思えた。 私は泣いた。 まるで子供のように。 梓ちゃんの手が、とても暖かかった。 「梓ちゃん、ありがとう」 私が泣きやむまで梓ちゃんは何も言わず、私の手を握り頭をなでてくれていた。 私のしてほしいこと、全てをしてくれた。 「梓ちゃんは天使ね」 そんなことないです、と梓ちゃんは言った。 たとえ何て言っても梓ちゃんは否定するだろうから、私はそれ以上は言わなかった。 (でもね、やっぱり梓ちゃんは天使よ) 泣いたせいだろうか、それとも吐き出してしまったせいだろうか、すごく心が軽かった。 「ねえ、梓ちゃん」 「何でしょう」 「大好きよ」 「私も、ムギ先輩が大好きです」 ……また少しだけ、自分が嫌になった。 梓ちゃんなら、こう言ってくれる。そんな確信と打算。 でも、今だけなら許されるんじゃないかと、そう思った。 「少し、お話を聞いてくれるかしら?」 私は、抱いていた不安について打ち明けた。 それは、ずっと持っていたもので、でも見ないようにしていたもの。 ずっと知っていたことだけれど、今気づいたもの。 皆は、なぜ自分と一緒にいてくれるのだろうか。 私はりっちゃんみたいに明るくないし 澪ちゃんのように可愛くないし 唯ちゃんのようにムードメーカーでもない 梓ちゃんのように、みんなを和ませることもできない 私にとってはみんな宝石みたいに輝いていて だから、考えてしまう 私だけがまるで観客で、取り残されているんじゃないかって いつか――――私は見向きもされなくなるんじゃないかって 不安を私は吐きだした。 考えてみればずっとそうだったのだ。 みんなに頼られるように。 みんなが私を必要としてくれるように。 私が―――みんなに見捨てられないように そんな思いを、気付かないように心の奥に鍵をかけてしまっておいた でも、卒業という大きな岐路を前に、大きくなりすぎたそれは箱を壊して私の心を支配してしまった。 そして。 籠の中の鳥だった私には、それをどうしていいのかわからなかったのだ。 「……ごめんね、こんなこと言われても困らせるだけよね でも、ダメなの。もうどうしていいのかわからないの」 「みんな、そうですよ」 「みんな同じなの?」 私にはそうは思えなかった。 みんなとっても魅力的で、望めば周りに人が来るように思える。 そして、こうも思う。 その人たちに、私がいなくても大丈夫なのだと。 「少なくとも、私もそう思ってます。 大学に行った先輩たちが、他のことに夢中になっちゃうんじゃないかって。 いつか、私がいないのが当たり前になっちゃうんじゃないかって」 そうだろうか? 梓ちゃんが居なかったらなんて想像もできない。 それはやっぱり梓ちゃんが必要ってことなんじゃないのだろうか? 「私も。ムギ先輩がいないなんて想像もできません。 でも、先輩たちが一足先に行ってしまって、私がいないのが当たり前になっちゃうんじゃないかって…… 考えてもしょうがないのは分かってるんですけど、考えたら止まらなくなって」 梓ちゃんも不安なんだ…… そう思うと少し安心して、少しだけ心が痛んだ。 「ねえ、梓ちゃん こういう時ってどうしたらいいのかな?」 「どうすることもできませんね…… 残念ですけど」 「じゃあ、この気持ちはどうしようもないのかな」 「一人では、どうしようもないでかもしれません でも……」 梓ちゃんはギュッと私を抱きしめた。 梓ちゃんの体温も鼓動も、今までよりずっと感じられる。 「私は、ムギ先輩のこと、大好きです ずっとずっと、大好きだっていう自信があります だから、離れてたって私がいます」 梓ちゃんの言葉がすぅっと浸透していく。 暖かな動悸が私を満たす。 「そっか」 「はい、そうです」 私は梓ちゃんに救われた。 だから、今度は私の番。 私はギュッと梓ちゃんを抱き返す。 「ね、梓ちゃん。さっき言ってくれたよね。 私がどんな所にいても、どんなに逃げて隠れても見つけてくれるって」 「はい」 梓ちゃんの腕に力が入る。 ちょっと痛いけど、全然嫌じゃない。 「私も、梓ちゃんが辛い時はどこにいたって、どこに隠れたって見つける 嫌だって言っても引きずり出してこうやってギュッてしちゃうんだから」 「……はい」 「私たち、一緒だね」 「嫌ですか?」 「ううん、全然 むしろ、良かったって思えるわ」 「私もです」 言葉にはしないけれど、わかった。 私も梓ちゃんも、弱くてもろい。 だけど、おかげでお互いの弱いところがわかるのだ。 私を好きだと言ってくれたこの子を、私のために苦しんでくれるこの子を、私は一生大切にすると誓った。 第一部完! 2
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ジャンル/音楽アルバム/OST 2002/6/29 BOOTH(CD-R版/MP3版) https //andymente.booth.pm/items/2451589 All Composed by Kazuyoshi Izumi トラックリスト ゲーム『I wish』『自給自足』より 誰もいない浜辺 (Vocal REI) 声 僕等のやり方 草木を掻き分けて 結ばれてゆく絆 雨 戦い サバイバル 潮香る午後 輝く時間 夜 I wish ver.2 誰もいない浜辺 ~piano ver.~ 夜空の星 光の雨 夜の喫茶 船 ダンジョン ホワイト・ヒル 宇宙 白い学校 願いこめて I wish (Vocal REI)
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1 2 3 4 5 6 7 むぎあず・澪唯 2010/09/28 ※律編(NL)はカットしてます・澪唯編は区切りありです http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1285675009/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る 文が綺麗というか甘すぎるというか… 好み別れるかも。 -- (名無しさん) 2016-06-29 23 30 12 何だかんだ言って良作だ。 -- (名無しさん) 2016-06-08 23 46 07 ↓この米、唯澪でよく見るけど同一人物? -- (名無しさん) 2012-02-19 05 39 14 自分に酔ってる感じのSSって苦手 -- (名無しさん) 2011-03-12 01 34 27 律編読んできた。やべぇ一番好きかも -- (名無しさん) 2011-03-11 18 04 39 澪唯編はifなのか 違和感なく繋がってる気がするんだが… しかしいいなこれ、文章が綺麗だ -- (名無しさん) 2011-03-11 14 14 40 いいよねこれ… 律編もいいから勿体ないんだけどねぇ… -- (名無しさん) 2011-03-11 10 00 02 ふぅ… -- (名無しさん) 2011-03-11 02 35 49 律編も好きだったけどね -- (名無し) 2011-03-11 01 44 26 …作者の書き方も相俟って綺麗だったな…良かったよ、薦める。 -- (名無しさん) 2011-03-11 00 25 29
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123. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 16 52.86 ID ejMwY/co 「もう帰ってくんなよ」 律はそういって私を追い出した。 律はやっぱり優しい。 私を怒るふりをしてちゃんと答えを導いてくれる。 今だってそう。 私を追い出すことで『行動せざるをえない』状況を作ってくれた。 ありがとう、律。 やっぱりお前は最高の親友だよ。 そして、唯。 今度こそ、ちゃんと向き合うから。 124. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 17 53.20 ID ejMwY/co 「みお、ちゃん」 私が出て行ったときのまま、唯はいた。 「え? うそ!? どうして」 唯の言葉を無視して私は唯に近づいていく。 「止めて! お願い! 来ないで!!」 唯は叫ぶ。 だけど耳を貸さない。 唯の手首を掴む。 「嫌! 離して」 離さない。 唯が私の手から逃れようと暴れる。 だけど、絶対に離さない。 唯の手はひどく冷たかった。 こんなになるまでにしたのは、私のせい。 だから、もう離さない。 「なんで? もういいじゃん! りっちゃんは帰ってきた! だったら澪ちゃんももう帰りなよ!」 嫌だ。 はっきりそう告げる。 唯が何かを叫ぶが、もう無視する。 唯を無理矢理押し倒す。 その目は、赤く、充血していた。 125. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 18 46.08 ID ejMwY/co ごめん、唯。私のせいだよな。 「違う、これは私の罰だよ」 違わない。 「違うよ、澪ちゃんは何も悪くないんだよ」 なあ唯、今だけは自惚れさせてくれ。 唯を泣かせたのは私だって。 全部私が悪いんだって。 「違う!違うーーーーんー」 唯の唇を塞ぐ。 ごめんな、唯。 私が馬鹿なせいでずっと傷つけて。 我慢させて。 126. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 19 44.30 ID ejMwY/co 「……だめだよ、澪ちゃん。 キスは、好きな人じゃなくちゃしちゃいけないんだよ」 今更なにを―――――――――――――― マテ、 なにか、大事なものを見落としている、そんな直感。 キスは、好きなひととだけ。 なら、なんで 考えろ、 考えろ。 なぜ今それを言うのか。 ならなんで唯は――――――――― ああ、 そういうこと、なのか 127. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 20 30.29 ID ejMwY/co 解った。 まるでパズルのように、ピースがはまっていく。 次々と、全ての事がはまっていく。 そして、それが意味すること。 確信に変わる。 だから、私はいう。 ねぇ、唯。 キスをしよう。 128. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 21 43.52 ID ejMwY/co 「だから、キスは好きな人にじゃないとしちゃダメなんだってば」 うん、だから、しよう。 いや、これではダメなんだ。 私が、私の意思で、唯にキスを。 「―――――――――― ……ねぇ、なんでこんなことするの?」 唯。 好きだよ。 「うそ」 嘘じゃない。 私は唯と、キスをする。 唯にだけ、する。 だって、好きな人だから。 ううん、これじゃダメなんだよね。 唯が、世界で誰よりも好き。 だから、私がキスをするのは唯だけ。 「うそ」 嘘じゃない 「うそ」 嘘じゃない 「……嘘だよ」 129. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 22 28.56 ID ejMwY/co 「嘘だよ。 だって。どんなときでも澪ちゃんの中にはりっちゃんがいたもん。 最初から一番はりっちゃんだったんだもん。 解ってたんだ、最初から一番になんてなれないって。 だから、二番目でも良かった。 澪ちゃんが求めてくれるなら、一瞬でも私で独占できるならいいと思ってた。 でも、だめだった。 りっちゃんと笑ってるのを見るだけで我慢できなかった! たった少しの間でも!私が独占出来たことなんてなかった! ずっと!ずっとずっとずっと! りっちゃん! りっちゃん!! りっちゃん!!! 私を見てくれた事なんて一度だって……」 唯の叫びが急に止む。 そして、真っ青になり、震え出す。 「ごめんなさい。 お願いだから忘れて。 もうわがまま言わないから もう一番になりたいなんて言わないから もう泣かないから 明日には都合のいい唯にもどるから おねがい、だから…… おねがい……」 お願いだから、捨てないで 130. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 23 25.83 ID ejMwY/co 今になって、事の重大さに私は押し潰されそうになった。 ずっと唯はこんな気持ちだったのか。 私が自分勝手に体を重ねたときも、自分勝手に泣いてすがったときも。 ずっと都合のいい唯でいなくてはと。 自分の気持ちを押し殺して、私にとって都合のいい唯でありつづけるようにと。 私が唯に感じていた、違和感。 その正体。 ずっと壊れそうな感情を押し殺して演じつづけた、私にとって都合のいい唯。 望んだのは、唯。 甘えたのは、私。 続けさせたのも、私。 そして、唯に今も尚続けさせようとしているのも、私。 望んだのが唯だとしても、結果傷つけたのは私だ。 だからもう終わりしによう。 これ以上、唯が傷付くのなんて我慢できない。 だから、キスをする。 私の気持ちが届くように。 唯が、私の好きを受け入れてくれるまで。 131. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 24 44.98 ID ejMwY/co ごめんな、唯。 これからは、ずっと唯を見ているから。 だから、もう我慢しないで。 泣きたいときは泣いてくれ。 ずっと、離さないから。 ずっとずっと、一番そばにいるから。 そうして、『やっと』唯は泣き出した。 ずっと、我慢させていたんだろう。 全部吐き出してくれ。 今までの分を全部。 そうしたら、今度は謝らせてくれ。 今までの分全部。 そして、始めよう。 これからの私たちの関係を。 132. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 25 53.33 ID ejMwY/co 「ねえ、澪ちゃん。 もう一回、好きだって言って。 好きって言って、キスして欲しい」 一度なんて言わせたくない。 何度だってしてやる。 私はキスをする。 私の好きな人に。 私の好きが伝わるように。 唯が笑う。 それが酷く久しぶりな気がする。 これからは、私がこの笑顔を作ってやる。 そう決めた。 だから、唯。 私と付き合ってください。 そういうと唯はまた泣き出してしまった。 「ごめんね、これは違うの。 嬉しすぎて、わけわかんないの」 133. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 26 25.93 ID ejMwY/co これからはずっと唯の近くにいよう。 唯が唯でいられるように。 私の好きを伝えていこう。 もう不安になんてさせないように。 今、ここから始めよう。 私たちの新しい関係を。 恋人としての、私たちを。 134. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 29 21.25 ID ejMwY/co 澪唯終わり 携帯で書いたので文章のずれや推敲の足りなさはご勘弁を 戻る
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――――――― ―――――――――――― ――――――――――――――――― 「ねえ、純ちゃん」 「んー? 何?」 「梓ちゃんの曲、どんな曲なんだろうね」 「そうだねー。 そりゃちょっとくらいは想像つくけど」 「……私には、わかんないや」 「あーもう、そこでいじけないのー」 「そういうわけじゃないんだけど。 やっぱりね、私は他人の気持ちなんてわからないよ。 私は、やっぱり違うんだよ」 「……うん、違うよ。 梓と憂は違う。 私と憂も、違う」 「……やっぱり」 「でも、私と梓も違うよ。 いいじゃん、それで。 私にも憂や梓が何考えてるのかなんてわかんない」 「それでもっ――――!」 「それでも! それだから、憂は私のこと理解しようとする、そうだよね? じゃ、それでいいんだよ」 「――やっぱり純ちゃんは優しいね」 「そんなことはないと思うけどね。 ま、憂からの言葉ならありがたく受け取っておくよ」 ――――――――――― ―――――――― ――――― そして―――――― 私が気付かぬうちに―――――― その人は、私の目の前に。 「びっくりした?」 当たり前だよ…… 何でここにいるの? 「今日は、約束の日だから」 それだけのためにわざわざ? 「それだけ、って言うのは酷いわ。 でも、確かにそれだけじゃないけど」 何のために、は伏せられた。 でも、私も追及しなかった。 できれば、同じ気持ちであってほしいと思うから。 たぶん、同じ気持ちだと思うから。 会いたいと、そう願っていたから。 お久しぶりです。 ムギ先輩 「ええ、お久しぶり。梓ちゃん」 私の意図をくみ取ってくれたのか、そう返してくれる。 もしかしたらムギも懐かしんでいるのかもしれない。 ムギと梓でなく、ムギ先輩と梓ちゃんとして。 あの頃と同じように。 私たちがこの場所で笑っていたあの頃と。 「そのまま続けてくれる?」 もうどこまで弾いたか忘れちゃいましたよ。 「そっか。 じゃあ、改めて。」 そう、ムギ先輩は区切った。 「梓ちゃんの曲、聞かせてくれる?」 はい。そして私は答える。 弦をはじく。 ビーンと鳴る。 ギターは、いつも素直だ。 だから私も。 素直に心を響かせる。 ―――――――――――― その曲は、とても軟らかく暖かな曲だった。 アップテンポというには少し穏やか過ぎるくらいに。 心地よい、心躍るリズム。 伝わる、梓の気持ち。 だって、私も同じだったから。 同じ時間を過ごしていたから。 そしてたぶん、今梓の周りにいる人たち。 憂ちゃん、純ちゃん。 きっと、みんなへの想いでこの曲は出来ている。 皆を思う、梓の気持ちで出来ている。 優しくて、奇麗。 だけど、それだけではなく、激しく強い思い。 それが込められている。 まるで梓の人となり、そのもののようだった。 私がなぜ梓に惹かれるのか。 それが少しわかった気がした。 「どうでした?」 そうね、優しくて暖かい、いい曲だったわ。 梓の気持ちが素直に伝わってきたよ。 「そうですか? 正直、本当にただ詰め込んだだけになってしまったような気がするんですが」 そうね。 でも、私も最初はそうだった。 梓は小さいころから音楽に囲まれているから、私が初めて作ったものよりずいぶん形になっていると私は感じた。 確かに、梓には作曲に対する知識も経験もない。 でも、それは後から付けられる付けられる。 大事なのは、想いをこめること。 想いを伝えられること。 少なくとも、私はそう思っている。 そして、私はまたこうも思った。 羨ましいと。 その強さが。 激しい想いが。 だけれども、これはナイショにしておく。 なんだか、これを言ってしまうのは、まるで告白のようで恥ずかしかったから。 「私の想いは、届けられると思いますか?」 今の段階ではまだ難しいかもしれない。 でも、きっと届くものにできる。 そう思った。 ――――――――――― 「どうしよっか? 曲についてもっとこうしたらいい、って言うのは言えるけど、たぶんそれは憂ちゃんと純ちゃんと相談してもいいし…… そうだ、歌詞はちょっとくらい考えてる?」 私は迷う。 実は、まだあるのだ。 私の曲が。 さっきの曲を作っているときに、あふれてきたもう一つの感情。 だけれども――― その曲は――――――― 今を逃すともう、きっとこの曲を弾くことはないだろう。 そのほうがいい、そう私の強がりな心が、弱い心が言う。 だけど、決めたから。 もう少し素直になると。 だから、 聞いてください。 知ってください。 私を。 弱くてもろい、さみしがりな私を。 想いは、確かにあふれた。 しかし、あふれた想いをコントロールすることはすごく難しかった。 曲に飲まれ、感情が暴走する。 考えなくてもいいことばかり頭に浮かんでくる。 今が幸せであればある程、暗く、深く、冷たく。 堕ちていく。 手が凍えて止まってしまいそうになる。 それでも、私は手を止めない。 止められない。 知ってください。 私の想いを。 受け止めてください。 私のことを。 そしてできることなら。 愛してください ――――――――――― それは、叫びだった。 始めは、バラードのように弱く、悲しく。 そして、ある時、抑えきれなくなったそれは爆発する。 強く訴える。 心からの叫び。 私は鳥肌が立った。 梓の、むき出しの感情。 ぶつけられる。 私の、矮小な本質が、裸にされる。 梓が、震わせて叫ぶ。 私の心が揺さぶられる。 そして 共振する。 気がつけば 私の目からは涙があふれていた。 「これで、終わりです」 梓の顔を見る。 泣きそうな顔をしている。 伝わった、梓の気持ち。 私の気持ちとおんなじ。 常に考えてしまう。 それは、『失う恐怖』。 一人ぼっちになる寂しさ。 それを考えてしまう、心の弱さ。 決して口には出来ないけれど、心の奥ではずっと叫んでいる。 『私を愛して』、と。 私は梓を抱きしめる。 そして言う。 伝わったと。 愛していると。 ―――――――――――――――――――――――――――― 「そういえばさ、今年はどうするの?」 どうするって……なにを? 「合宿だよ合宿! えーっと、一昨年は海で去年は夏フェスでしょ? 私たちだって行きたいよ!」 遊びに行くんじゃなくて練習しに行くんだよ? 「私も合宿行きたいなぁ」 ……どうしようかなぁ。 確かに学祭に向けて練習したいし、一年生と交流を深める意味でも合宿はやるべきだというのはわかる。 分かるんだけど。 そっか……この二人にはまだ言っていなかったっけ。 「え? ムギ先輩の別荘!?」 「あはは…… さわ子先生にそんなことが」 そう。 だから今年はあんまりあてがないんだよね。 「……ムギ先輩にお願いしてみる、とか?」 ダメ。 あの人のことだから絶対いいって言うから。 迷惑はかけられないよ。 「だよねぇ…… でも合宿はしたいよ」 「皆で安いコテージ探して借りるとか、ダメかな? 5人で割れば一万円以内でなんとかできる所あると思うんだけど」 憂も乗り気だね。 「うん。みんなとお泊りできるなんて楽しみだよ」 うん……そうだよね。 遊ぶことも、お喋りも、全部私たちを形作る大事な物なんだから。 皆で探して、行こう。 きっとこの苦労だっていつかは良かったと思えるから。 で、こうなるわけですか。 「迷惑だったかしら?」 「あずにゃんしどい!」 迷惑だ何て、むしろ私たちが迷惑掛けてるんじゃないですか? 「そんな事ないわ。 私はむしろ楽しみでしかたないの」 「梓、私たちは梓たちとがいいから言ってるんだ。 こっちの都合は気にしないでくれていいんだぞ」 「そうだぞー。 大体5人で借りるより9人のほうが安くすんでいいだろ? それにさ、私たちのほうから持ちかけてるんだから迷惑なんてあるわけないじゃん」 そうですね。 私も先輩たちとがいいです。 後輩にもいい刺激になるでしょうし。 「ふふっ。 すっかり部長になっちゃってるわね」 「ああ、律より全然安心できるな」 「澪しゃんそれは言わない約束だろー」 「あずにゃん! 楽しみだね」 そうですね。 楽しみです。 ――――――――――――――――――――――― 「ついたー。 思えば長い旅だった……」 「何言ってるんですか、純先輩。 コテージはもうすぐなんだから頑張ってくださいよー。 ほら!見えてきた」 「ワン子は元気だねえ」 「まぁ、ドラマーですから!」 「……あのぅ」 ん? どうしたの? 「あの、コテージなんですか? なんだか、その。 すごく大きいんですけど……」 そうだよ。 「……」 「どったの、エーコ? 言いたいことがあるならはっきり言わなきゃ伝わんないぞー」 「あの、その…… えっとですね、その、すごく大きくてきれいだなぁって」 「そりゃそうさ! 部長が頑張って見つけてくれたんだからね!」 ……たぶんそういうこと言いたいんじゃないと思うけど。 4泊5日。長い。 大きくてきれいな海沿いの貸切ペンション。 そして、周りに他の建物も、無し。 私がみんなから集めたのは、一人五千円。 そりゃ割に合う金額じゃない。 もう一人、たぶんもう気づいているだろう憂は我関せずで笑顔を見せている。 だから私も、知らん振り。 穴場だね、なんて言ってみる。 納得できない顔をしているけど、まぁ、いいだろう。 この子たちのびっくりする顔が楽しみだ。 「ねぇ、部長」 あ、驚いてる。 エーコのほうを見ると?って顔。 そっか。 ワン子は去年の学祭見に来てるけど、エーコは知らないんだ。 貸切のコテージ。 なのに、そのコテージ前には人がいる。 今回、私たちと一緒にコテージを貸し切った人たちが。 「お前たちが来るのを待っていたー!」 「こら律!」 「みんな久し振り~」 「ごほん! ようこそ桜丘高校軽音部の皆さん! 私たちは軽音部OGの放課後ティータイムです。 まぁ、何はともあれ聞いてください!」 そう言って先輩方はうなずきあう。 手にそれぞれの楽器を持って。 そして始まる。 以前とおなじ、律先輩の合図で。 「ワン、つー、スリー――――――――― 演奏が終わる。 それぞれの顔を見る。 純は、興奮で大変なことになっている。 憂は、笑顔で見ているかと思いきや、真顔で聞き入っていた。 そして、ワン子とエーコの二人は、食い入るように見つめていた。 ふと、私が一年生の頃を思い出す。 新観ライブを見に行ったとき、私もこんな風だったのだろうか。 もし、そうだとしたら、これがいい刺激になっただろう。 私たちは放課後ティータイムとは違う。 だから、超えるだとか、負けるとかそういうのはなくていい。 ただ、聞いた人の胸に届くように。 届いた人の心に残るような。 そんな演奏をしたいと思ってくれるなら嬉しいと思う。 だから、私は言う。 ほら、いつまでもボーっとしないの。 次は、私たちの番だよ、と。 私たちの演奏も終わった。 無意識のうちに私はあの人を見てしまう。 目をつむり、柔らかに微笑んでいる。 私も微笑んでしまう。 「さて、じゃあ私たちが後輩にきっつーい指導を」 「え、マジですか?」 「おう、ドラムは私だぞ。 ビシバシ行くからな!」 「私は、澪先輩の指導ならむしろ受けたいです!」 「うん、みっちりやろうか」 「ギターは私だよ! よろしくね」 「あ……は、はい……」 「私は憂ちゃんねー」 「はい、ムギさんよろしくお願いします」 「だが! その前に! 泳ぐぞーーーーーーーーーー!」 「はい! りっちゃん隊長!」 「お、おい! ちょっと律!唯! ってムギまで?」 「今年はちゃんと下に水着着てきたわ! じゃあ先に行って待ってるから」 「……ごめんな。 こんな先輩で……」 頬が緩む。 変わってないな、先輩達。 戻る 6 ※澪唯編
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104. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 21 56 00.59 ID ejMwY/co まとめた時間が取れず携帯からちょくちょく書いていたものを投下。 あくまでむぎあずとは別物語のifとしてお考えくださればありがたい。 105. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 21 57 05.67 ID ejMwY/co 『お前のそれは、恋じゃないよ』 律はそういった。 だとしたら、何だというのか。 私の抑え切れない気持ちは、 この気持ちは どこへ向かえばいいというんだろうか。 『私は、澪の事大好きだ。 一番、大好き。 でもそれは、親友としての『好き』であって恋人に向ける『好き』じゃないんだ』 はっきりと、律は言った。 これ以上は、望めないと。 『時間をおけばわかるよ。 私は澪の望んでた王子様でもなければ夢見てた恋人でもないんだってさ』 私は、そんな夢見る少女じゃない。 王子様も、いらない。 律だけいればいい。 律がいるだけでいいのに。 なのに 『違うよ』 そう否定された。 そして律は、私の元から離れて行った。 106. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 21 58 12.41 ID ejMwY/co 私は泣いていた。 この気持ちを処理する方法がわからなかった。 私の世界にはつねに律がいた。 そばにあり続けてくれた。 気がつけば、私を私たらしめる、大事なものになっていた。 律が他の人のものになる。 そう考えただけで、私は自己というものを失う。 それくらい、律は私の大事なものだった。 私はもう、一人で立ち上がることは出来なかった。 そこで、私に手を指しのべたのてくれたのは 「澪ちゃん……」 唯だった。 107. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 21 59 09.29 ID ejMwY/co 唯は知ってか知らずか、何も聞かずにずっとそばに居続けてくれた。 気がつけば私は唯の家の住人になっていた。 家に帰るのが、律にあってしまうのが怖かったから。 唯はずっといてもいいといってくれた。 私が立ち上がるのを、ゆっくりと待ってくれる。 望めば、何時だって手を差し延べてくれる。 だから、私は甘えた。 この、心地好い泥沼に 108. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 21 59 52.84 ID ejMwY/co 解っていた。 このままではいけないと。 私は唯に甘えているだけで、差し延べられる手を見ているだけで、立ち上がろうとしていない。 それでも、そばにいてくれる唯を見て安心したいだけ。 悲劇のヒロインを演じたいだけ。 私は、唯のためにも早く立ち上がろうと思った。 109. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 00 41.07 ID ejMwY/co 私は少しずつ笑えるようになった。 それは唯がそばで笑っていてくれたからだった。 律とも、ちゃんと話せるようになった。 それは、私が律と会う時に唯がいつもそばにいてくれたからだった。 それでも、私は家に帰ることが怖かった。 家にもし律がいたら。 それは私にとってとても恐ろしいことだった。 考えるだけで手が震えた。 その度唯は私の手を握ってくれた。 ずっと居ていいといってくれる。 それが、とてもありがたかった。 110. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 01 23.67 ID ejMwY/co 唯に、私はありがとうと伝えた。 今までずっと言えなかった分のありがとうを。 なぜだろう。 唯が悲しそうな顔をしているのは 「ねぇ、澪ちゃん キス、しよっか」 111. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 02 29.52 ID ejMwY/co 言葉の意味を理解するより速く、私は唯の顔が目の前にあることに気づく。 唇が、触れる。 始めての感情は、驚き。 そして次の感情は、何故?という疑問だった 「ぷはぁ…… えへへ、しちゃったね」 わけがわからなかった。 唯の中にある感情が。 それに、私の中にある感情も。 「ねぇ」 背筋がぞわりとする。 初めて見る、唯の声色。目。匂い。 それは、わけのわからないものに対する恐怖と 「澪ちゃん」 確かな、感情の高ぶり。 「抱いて」 112. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 02 57.28 ID ejMwY/co 「一番じゃなくていいよ。 別に他の誰かのものだっていい。 だけど、今だけは澪ちゃんの一番で居させて。 私で心をいっぱいにして」 唯はそういった。 解っていた。 また私は唯に甘えていると。 それでも、私は………… 113. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 04 19.46 ID ejMwY/co 私は、以前と同じように律と接する事が出来るようになっていた。 今なら、律の言っていたことがわかる。 私はただ、律が奪われるのが嫌で駄々をこねていただけだった。 律は、今でも変わらず大事な友人でありつづけた。 私はそれで満足だったのだ。 けれど、逆にわからなくなってしまった、いや、いまもなおわからなくなり続けているものがあった。 「澪ちゃん……抱いて」 私はまだ唯の家に帰り続けていた。 そしてこの関係も続いていた。 「私に悪いと思ってる? 私は嬉しいんだけどな」 私の心は用意に唯に汲み取られる。 だけれども、私には唯の気持ちがわからない。 「ねぇ」 また背筋がゾクリとする。 まるで、私の知らない人であるかのように。 いつものふわふわした女の子でない、唯があらわれる。 「澪ちゃんのしたいことを、して。 キスしたいなら、して。 殴ってくれても、蹴ってくれてもいい。 澪ちゃんにされることなら、なんでも幸せだから」 わからなくなる。 「だから、お願い。 シテ」 そして私はまた唯と体を重ねる。 重ねるほどに、解らなくなっていく。 114. 【唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 05 34.11 ID ejMwY/co 私は幸せだった。 求められている。 少しの間だけでも一番で居られる。 例え今だけでも、独占できている。 昨日澪ちゃんが引っかいた背中痛み。 澪ちゃんが噛んだ肩の歯型。 それだけで十分だった。 十分だと、そう思っていた。 それなのに 私自信が引いた線が、音を建ててくずれる。 私はその場から逃げるように、いや。 文字通り『逃げ去った』 116. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 07 47.75 ID ejMwY/co 私は律と自然に笑って会話できるまでに回復した。 これも全て唯のおかげだ。 なのに なんでそんな顔をしてるの? 「ごめん、私帰るね」 そういうと唯は走って行ってしまった。 追い掛けようととっさに足が動く。 けれど、すぐに私は立ち止まってしまう。 追い掛けて、一体何を言えばいい? 一体何をすればいい? 唯は何を考えているの? 117. 【唯’s side】 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 09 35.17 ID ejMwY/co ダメだった。 解っていたのに。 堪えられると思っていたのに。 携帯を握りしめる。 着信が着てほしくないのに。 泣いちゃダメなのに。 いつも通りでいないとそばにいれないのに。 与える側じゃないといけないのに。 涙が止まらない。 震えが止まらない。 求めて、止まらない。 助けてよ 澪ちゃん―――――――――― 118. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 11 41.70 ID ejMwY/co 唯――――――――――― 家に、唯はいた。 「ねぇ、澪ちゃん」 まただ。 またあの感覚。 背筋を撫でる、あの声、あの眼、あの匂い。 「シテ」 どくんと鼓動が高鳴る。 でもそれはいつものような高ぶりではない。 それはきっと―――――罪悪感。 唯の体に付けた無数のキスマーク。 無数の傷後。 全てが過ちのような気がしてきた。 唯が望んでいると、そう自分に言い聞かせてきた。 そうやって自分を騙してきた。 けれど、もしかすると。 もしかすると、唯はずっとこんなに壊れそうな顔をしていたのか? 119. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 13 07.89 ID ejMwY/co 「そっか」 唯は一人頷いた。 解らない。 なにが『そっか』なんだ? なんで一人だけ解ったような事を言うんだ? なぁ、唯は何を考えてるんだ? 「出てって」 なっ―――――― どうしてなんだよ! 傷つけたなら謝るから。 だからそんなこと言うなよ! 「いいじゃんか。 もうりっちゃんの事吹っ切れたんでしょ? また戻ってきたんでしょ? つらいときも、楽しいときも、ずっとそばにいてくれるよ。 だから」 「出てって」 120. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 13 41.70 ID ejMwY/co 解らなかった。 唯がなんであんな事を言ったのか。 唯が何を望んでいるのか。 どうして苦しんでいるのか。 どうすればまた笑ってくれるのか。 唯。 なぁ、唯。 お前は、一体どんな気持ちであんなこと言ったんだよ…… 121. 【唯’s side】 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 14 09.51 ID ejMwY/co 一人ぼっちの部屋。 広くて、冷たい。 あはは、と渇いた笑いがこぼれる。 私に相応しいじゃないか。 望みすぎて、結局我慢できずにこの有様だ。 近くにいられるだけで良かった、なんて嘘。 一番になろうとして、一番になれなくて、癇癪を起こした結果がこれ。 馬鹿らしくて滑稽だ。 本当に馬鹿だ。 馬鹿らしくて、馬鹿らしくて 涙が、止まらない 122. 澪唯 ◆8Mj6VMVRzQ 2010/10/27(水) 22 15 04.37 ID ejMwY/co ――――パシン 渇いた音が響く。 ヒリヒリと言う痛みが今の私には心地好かった。 「まず、お前の一番の間違いは私に相談したこと」 そう律は言った。 解ってる。 そんなこと解ってる。 私が律から離れて、唯のそばにいる。 ずっとそうすればいいのは解ってる。 でもそれは、結局時間が風化させるだけで、根本的な解決にならないのも解っていた。 「そして次に、解らないなんて言って考えるのをやめたことだ」 そうだ。 私は解らないと決め付けて、解ろうとしなかった。 考えても解らないのではない。 思考を停止させることで傷付くことから避けていたのだ。 「そして何よりも私が怒っているのは、そうやって逃げて自分だけ傷つかないようにしてることろだ」 「悪いって思うんならなんで逃げんだよ。 傷つけたって思うならなんで私のところに来るんだよ。 どうして唯が泣いてるってわかってんのにお前はここに居るんだよ!」 そういうと律は溜息をついた。 「ほんとはだいたい気づいてんだろ? だけど傷付くのが怖いからそうやって向き合おうとしないんだ。 わかるわかんないじゃなくて少しは行動しろよ」 7
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「私の初めて、梓ちゃんにあげちゃった」 ああ、この人はずるい。 本当にずるい。 可愛すぎてずるい! そんなこと言われたら、また嬉しくなっちゃう。 「ねえ、梓ちゃんは初めてだった?」 ああもう、私だって初めてです! 私の顔からはきっともう火が出ているに違いなかった。 「えへへ、梓ちゃんの初めて、貰っちゃった」 ムギ先輩は、本当にずるい。 そんな顔で笑われたら、もうだめ。 落ちてしまう。 「嬉しい」 私だってこんなに嬉しいですよ! 私は素直じゃないからそんなこと言えなくて。 ムギ先輩の天使のような笑顔を見ながら、 何となく、初めてがムギ先輩でよかったなんて思い始めていた。 ムギ先輩、こういうことはそんな簡単にしちゃダメです。 私はそういった。 それは照れ隠しでもあったし、無邪気で純真なムギ先輩を思っての言葉だった。 でもムギ先輩はわかっていないような顔で言う。 「どうして?」 どうしてって、それは。 キスは、大事なものだから。 本当に好きな人とだけ、するものだから。 いくら女同士とは言えこんな簡単にするものじゃない、と思う。 「私は、梓ちゃんの事大好きよ?」 今大好きっていうのは、ずるい。 でも、私は言う。 言うというよりも、口から思ってもいないことが出てしまう。 私もムギ先輩の事は大好きだけど、キスをするような好きは、恋人とかそういう人に向ける好きなんだって。 「ふふ」 何でそこで笑うんですか! 私は真面目にですね…… 「梓ちゃん。 私は相手が男の人でも、女の人でも、梓ちゃん以外にキスなんてしないわ」 うっ…… ずるい。 ずるいずるいずるい! そんなこと言われてしまったら、何も言えなくなってしまう。 そんなこと言われたら…… 嬉しくて仕方なくなってしまうじゃない。 「安心した?」 私は何も言えなくて俯いてしまう。 もう、ただの友人とは思えなかった。 でも、恋とも違うかもしれない。 だけれど、私は。 ムギ先輩にーーー琴吹紬の魅力に。 すっかりと落とされてしまったのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――― 梓ちゃんの顔が離れていく。 思っていたよりずっと、私は冷静でいられた。 まるで夢のようだ、そう思えるけれどそうでない実感がある。 目の前の少女。 誰よりも、愛し人。 天使だと、そう思っていた女の子。 でも、彼女が本当に天使でなくてよかった。 こうして触れ合って、自分の想いを伝えることができる。 私は臆病で、どうしようもない人間だった。 直前になって、やはり勇気を振り絞ることができなかった。 拒絶されるのではないかと。 そう思うとそれ以上進めなくなってしまった。 だから、彼女からしてくれて、本当に嬉しかった。 それは、私の不安も、私の想いも。 全てを受け入れてくれたような気がした。 言葉だけでは伝わらない想い。 私の気持ち。 伝わったかな。 伝わるといいな。 …… その日、私はムギ先輩のお家に泊まることになった。 本当は帰ろうと思ったのだけれど、ムギ先輩が夕ご飯を作るから食べてほしいと言った。 意気込んだムギ先輩を止めるなんてことは私には出来なかった。 それに、ムギ先輩が私のために作ってくれる、なんて言われたら。 嬉しくて、断ることなんてできなかった。 夕ご飯はとても美味しくて。 私がおいしいというとムギ先輩が喜んでくれて。 私は自分が満たされていくのを感じていた。 「ねえ、梓ちゃん。 梓ちゃんにとって私は何?」 すごく難しい質問だった。 それは私のこの迷いをチクチクとつついてきた。 「もう、私は先輩じゃないよ?」 私の心臓がドクンと跳ねる。 私とムギ先輩のつながりとは何なのだろうか。 先輩でも後輩でもない。 だとしたら、ムギ先輩にとって私は何? 赤の他人? 声を出そうとして、気づく。 まるでのどがカラカラになっているようだった。 私はまるで駄々っ子のように声を振り絞っていう。 ムギ先輩にとって私は―――――― 「私にとっての梓ちゃんはね、とても大切な人よ。 先輩後輩なんかじゃとっても言い表せない。 親友って言うのも、なんだか変な感じ。 そんなものよりずっと。 大切な、大切な人よ」 言葉だけではなかった。 声に乗せて伝わって来たもの、それはムギ先輩の想いだった。 痛いほど、切ないほど伝わった。 私は、すごく恥ずかしくなる。 こんなに思っていてくれているのに。 こんなにも愛されているのに。 信じることができなかった。 「私もね、同じよ。 梓ちゃんは優しいから。 私はどこかで本当は求められてなんかいないんじゃないかって思ってしまうの。 だから、できれば聞かせてほしいな。 梓ちゃんの本当の気持ち。」 もう何度も言った気がする。 でも、先輩が信じられないというなら。 この想いが伝わるまで何度でも言おう。 ムギ先輩が求めるのなら、声が涸れても伝えよう。 ムギ先輩、大好きです。 「ただの先輩以上に思ってくれるなら、呼び捨てで呼んで」 ああ、そう言うことだったのか。 前に、初めてあだ名で呼ばれて嬉しかったって言ってたっけ。 「それもそうだけど。 やっぱり梓ちゃんには呼び捨てで呼んで欲しいの。」 ムギ先輩のストレートな思いが伝わってきて恥ずかしくなる。 ムギ――――― すごく喜んでいる。 なんだか私も距離が近づいた気がして嬉しかった。 「……あずさ」 うっ…… 駄目だ…… 嬉しさと恥ずかしさで顔が赤くなるのを止められない。 「あずさ」 ムギ 「あずさ」 ムギ 2人で笑いあう。 確かに、ムギせ――― さっき言っていたこと、わかる気がした。 呼び名一つだけだけど。 たかがそれだけだけど。 たしかに、心の距離は近づいていた。 「敬語も、少しずつ、ね」 ……善処します 待ち遠しかった制作復帰。 投下していきますが、視点がころころ変わるので注意。 基本的には線で時間か視点が切り替わるようになっています。 自分でもいい方法がわからないのでこうしたらいい、という意見は常に募集しています。 そして新しい生活が始まった。 以前のように毎日電話することはなくなった。 それは、私が大学が始まり忙しくなったことや、梓が受験生になったこと、いろんな原因があったと思う。 でも、それは私たちの距離が離れてしまったというわけじゃない。 離れていても、相手のことを思っている。 繋がっている。 そう言う確信が私にはあった。 だからと言って、ずっと一緒にいるのが当たり前だとも思わない。 私と梓のつながりは脆いもので、いつ切れてしまうかわからない。 私と梓は、別の人間だから。 完全に理解するなんてことはできないから。 だから私は、大切にする。 何よりもいとおしく思う。 このつながりを。 この心の暖かさを。 その日私たちは電話をしていた。 かけたのは……どちらでも同じことかな。 「ムギは、どうやって曲を書いてる?」 そっか、澪ちゃんもわたしももういないから、梓ちゃんが曲を作るんだ。 ……聞きたいな、梓ちゃんの曲。 「うっ―――― なんかそう言われると照れくさいね。 でも、澪先輩もムギもいなくなっちゃて曲のことまかせっきりだったなぁって。 私の番が来てやっとその難しさに気づいたよ」 だから、曲の書き方を教えてほしいということらしかった。 でも、曲を書く、といわれてもピンとこない。 書こうと思って書いたことがないとは言わない。 でも、私にとって曲は書くものではない。 私の心が、感情が旋律になってあふれていくもの、それが私にとって曲だった。 「想いが、あふれ出るもの…… なるほど」 難しく考える必要はない。 子供のころから音楽に接してた梓なら想いを旋律にできるはず。 口でなく、手足でもなく、楽器を使って表現するだけ。 「出来るかな……私にも」 できるわよ、絶対。 「私にもムギみたいに、心に響く曲が作れるかな」 梓なら、私よりもっと素敵な曲が作れるわ。 「伝えられるといいな。 私の気持ち」 ねぇ、梓。 今の気持ちを、私に"聴かせて"もらえる? 『梓の気持ちを聞かせて』 難しい。 結局、それは来週までの宿題になった。 『自分の気持ちを、素直に見つめて』 『あふれ出る気持を旋律にするの』 私は素直じゃないから。 自分の気持ちを素直に見つめるのはすごく難しい。 でも、少し私は変わったんだと思う。 先輩たちの卒業で、わかったことがある。 変わらない物なんてないことを。 大切なものも、大切な人も全部。 当たり前にあるものなんて、ないんだ。 キュンと胸が苦しくなる。 当たり前すぎて気付けない? 違う。 考えたくないから考えないだけ。 今あるものすべて、私の大切なもの。 放課後ティータイムも、今の軽音部も。 私の、大切なものだから。 私が大事にしなくてはいけないものなんだ。 私の周りには、大切なものばかりだ。 目を閉じれば幸せな時間。 私一人では得られない時間。 私は、とても幸せな人間だ。 うぬぼれでも何でもなく、そう思う。 だから、大事にしなくちゃいけない。 大好きな人たちといられる、この時間を。 そして―――――― 土曜日。 ムギ先輩との約束の日。 私は、なんとか曲を作った。 部室のソファに座る。 安物だから、少し硬い。 でも、私の心は深く沈んで行く。 疲れてるのかもしれないし、怖いのかもしれない。 そういえば、憂たち遅いな…… ―――――ダメだな。 ずっと曲と、自分の感情と向き合っていたせいだろうか。 まるで親の迎えを待つ子供みたいに、悪い想像ばかりが膨らんでいく。 「ごめーん、梓ちゃんおまたせー」 「おまたー」 ああ――――― 私の暗闇に手が差し伸べられる。 どうしたの? 憂が遅刻するなんて珍しいね。 「あれ? 今日はお小言なし? てかなんで笑ってんの? あ、もしかして私たちが来ないかもって思って寂しかったの?」 変なところで鋭いなぁ。 でも… 「そうかも、って……梓どうしたの? 熱でもあるの?」 「純ちゃん、それひどい」 ううん、いいよ。 「ねぇ梓、本当に大丈夫? 体調とか悪くない?」 こうして見つめてみると、よくわかる。 自分がどれだけこの友人に甘えていたか。 どれほど助けられていたか。 律先輩とおなじ。 自分勝手なようで、実は一番人に優しいのだ。 そして、一番助けられていた人は、私。 純は、すごく優しいね。 「や、やめてよ なんか梓に言われると恥ずかしいって言うか……」 「でも、純ちゃんはすごく優しいよ」 「やめて! あんまり私を褒めないでー!」 「でも、本当に梓ちゃんどうしたの? なんだかいつもの梓ちゃんじゃないみたいだけど」 それはたぶん。 自分の深いところにふれたから。 でも、たぶんこれは伝わらないだろうな。 だから私は言う。 ちょっとだけ素直に生きることにしたんだ、って。 ――――――ジャーン 「今のいい感じだったんじゃない?」 ……サビのところ、純だけ走ってたよね。 憂が合わせたから私も走っちゃったけど。 「あれ? そうだった?」 「あはは…… ごめんね梓ちゃん」 ねぇ、純、憂? サビのところはもっと走ったほうがいいと思う? 「え……? 怒ってんじゃないの?」 「……私はつられちゃっただけで、ちょっとどっちがいいかって言われても。 ごめんね」 「私は走ったほうが好きかなあ。 やっぱ曲が盛り上がったらこう、心も走っちゃうって言うか」 それは、わかるかな。 「梓ちゃんもしかして曲調変えるつもりなの?」 「え? マジで」 それはないよ。 確かに曲に気持ちを乗せるのは大事だけど、演奏してるほうの自己満足じゃ仕方ないし。 それにこの曲は、私たちが作ったものじゃないしね。 「……ごめんね」 いや、別に攻めてるわけじゃないよ。 やるならやっぱりアレンジとか 「アレンジかぁ」 「アレンジ! いいじゃんやろうよ」 それよりも、私実は―――――― ―――― ―――――――― ―――――――――――――― 「あ!」 「どうしたの?」 「ごめん、憂、梓! 今日家にいとこ来てて出かけるから早く帰ってきてって言われてたんだ!」 「梓ちゃん、実は私も今日はお姉ちゃんが帰ってきてて、できたら早く帰りたいなぁって」 そう言うことじゃ、仕方ないよね。 じゃあ今日はここまでにしよっか。 「変わりと言っちゃなんだけどさ、明日も練習しない? 午前中だけとかさ」 「私は賛成かな。新歓ライブ成功させたいし」 うん、私も2人ともっと練習したいな。 「じゃあ、そう言うことで! 憂、帰ろう」 「うん、純ちゃん帰ろう」 あ、待って、私も…… 「ああ! 梓はもうちょっと練習していきなよ!」 「そうそう、せっかくギター引けるんだしアレの続きとかしたらいいよ!」 「「じゃあ!」」 え? ちょっと二人とも 「明日、楽しみにしてるから!」 「梓ちゃんの曲、聞かせてね!」 そういって2人は去っていく。 私を置いてけぼりにして。 最近、少しこういうことが増えた気がする。 なんだか、二人の間に入っていけないって言うか。 ちょっと、疎外感。 首を振ってその考えを振り棄てる。 2人は、私のことを気遣ってくれたんだろう。 じゃないと、あんなに不自然なウソをついたりしないだろうし。 ――――あぁ、また私は優しさに甘えてしまってるんだな。 やっぱり、二人は私の宝物だ。 この気持ちを、弦に乗せる。 聞いた人に、この気持ちが伝わるように。 幸せを、そしてありがとうを。 そして―――――― 私が気付かぬうちに―――――― 5